あの理不尽な声、今も耳に残っていませんか
特に何か失礼なことをしたわけでもないのに、突然大きな声で怒鳴られた。理由のよく分からない理不尽な言葉を浴びせられて、その場では平静を装いながら対応を続けた。そんな経験をしたことはありませんか。
こんな瞬間に、心当たりはありませんか。
– 「上の者を出せ」と言われて対応を代わっても、結局怒りの矛先は自分に向いたままだった
– 理不尽な要求に、笑顔で「申し訳ございません」と繰り返すことしかできなかった
– 対応が終わった後も、その時の声や表情が、何時間も頭から離れない
仕事だから仕方がないと分かっていても、心には静かに傷が残っていく。その傷を、誰にも見せられないまま、次のお客様にまた笑顔で対応しなければならない。そんな日々を送っている方もいるかもしれません。傷ついたことに気づく暇もなく、次の対応に追われてしまうことも少なくありません。
それは、あなたの心が弱いから、ということではありません。理不尽な扱いを受けて傷つくのは、ごく自然な人間の反応です。
実は私自身も、以前お客様対応の窓口にいた時期、まったく身に覚えのないことで長時間怒鳴られ続けたことがあります。電話を切った後、しばらく手が震えて、次の対応に移るまでに深呼吸を何度もしなければならなかったのを覚えています。その日の帰り道、誰かと目を合わせるのも億劫なくらい、心がすり減っていました。
家に帰ってからも、あの怒鳴り声が耳の奥に残っていて、夕食を食べていても、お風呂に入っていても、ふとした瞬間に蘇ってきました。「自分が何かしてしまったのだろうか」と、眠る直前まで考え続けていたこともあります。
「自分の対応が悪かったから」その決めつけ、本当でしょうか
「自分の対応が悪かったから、こんなに怒らせてしまったんだ」と、相手の怒りの原因を、自分のせいだと引き受けてしまうことがあります。
でも、理不尽な怒りをぶつけてくる相手は、あなたの対応そのものより、その日の自分自身の苛立ちのはけ口を探していた、ということも少なくありません。あなたが何をしても、同じように怒っていた可能性もあるのです。
冷静に振り返ってみると、あなたの対応そのものには、実はこれといった落ち度がなかった、ということも多いはずです。それでも「もっとこうすればよかった」と、無理やり自分の非を探し出してしまうこともあります。
一度理不尽な対応を受けただけで、「この仕事は、もう自分には向いていないんだ」と、その日一日、あるいはこの先ずっとのことのように感じてしまうこともあります。でも、それは、たった一つの出来事から、先のことまで悪く決めつけてしまっているだけなのかもしれません。
これは、あなたが打たれ弱いからではありません。強い言葉を浴びせられたとき、脳はそれを危険な出来事として、長く記憶に刻み込もうとすると言われています。何時間も引きずってしまうのは、自然な反応なのだと思います。
同じ日にどれだけ多くのお客様と穏やかにやり取りできていたとしても、たった一件の理不尽な対応の方が、記憶に強く残ってしまう。それは、あなたの受け止め方が間違っているからではなく、人の脳がそういう仕組みになっているだけなのです。
その怒りは、あなた個人に向けられたものではないかもしれません
理不尽な怒りをぶつけてくる人は、必ずしもあなたという人間を見て怒っているわけではありません。その日、他の場所で嫌なことがあったのかもしれませんし、単に機嫌の波が激しい人なのかもしれません。
普段の生活の中で、何かうまくいかないことが重なっていて、たまたま連絡してきた窓口があなただった、ということもあります。あなたは、その人の日常を知らないだけなのです。
だからといって、その態度が許されるわけではありません。ただ、その怒りの矛先が偶然あなたに向いただけで、あなたの人間性が否定されたわけではない、ということは、覚えておいてもいいのかもしれません。
たまたまその場にいたのがあなただったというだけで、別の日、別の担当者であっても、同じように怒りをぶつけられていた可能性は十分にあります。
もし、少しだけ試してみたい気持ちがあれば、次に同じような場面に出会ったときのために、「ここから先は上司に対応を代わってもらう」という自分なりの区切りを、あらかじめ決めておく、という方法もあります。その場で判断に迷わなくて済むだけでも、少し気持ちが楽になります。「全部一人で抱えなくていい」と決めておくこと自体が、心を守る備えになります。
もうひとつ、その日のうちに、信頼できる同僚や家族に「実はこんなことがあった」と話してみる、という方法もあります。一人で抱え込まずに言葉にするだけで、心の負担が少し軽くなることがあります。共感してもらえなくても、ただ聞いてもらうだけで、気持ちが落ち着くこともあります。
もちろん、今はまだ誰かに話す気になれないなら、無理に話さなくても大丈夫です。何もしなくても、「今日は辛い思いをしたんだ」と、自分自身がまず気づいてあげるだけで、十分な一歩です。無理に気持ちを切り替えようとしなくても構いません。
今夜は、その傷をそっと手当てしてあげませんか
理不尽な怒りに耐えたことは、あなたの弱さの証ではなく、それでも仕事に誠実に向き合おうとした証です。
傷ついた自分を、責める必要はありません。その傷は、あなたが優しく、まっすぐに人と向き合ってきたからこそ、できたものなのだと思います。心を無くして機械のように対応していれば、そもそも傷つくことすらなかったはずです。
明日も、無理せず、あなたのペースで大丈夫です。今夜はその傷をそっと手当てしてあげて、ゆっくり休んでくださいね。
